CafeSeek
調べもの 2026-09-05

抹茶はどこから来て、
なぜいま高いのか

2024年の秋、京都の茶舗が「お一人様あたりの購入点数を制限させていただきます」という告知を出しました。抹茶に、購入制限。この記事は、その一行から始めます。いま起きていることを「世界中で抹茶が飲まれるようになった」の一言で片づけると、いちばん大事なところを取りこぼします。統計を開くと、動いているのは主に量ではなく単価のほうでした。

筆者はふだん、味が決まらないときに湯温も粒度も豆も同時に変えることを薦めません。どれが効いたか分からなくなるからです。抹茶ブームも同じで、需要と供給と産地と価格をいっぺんに混ぜて語ると、結局なにも分からない。だからこの記事では、一つずつ分けて置いていきます。

数値は断りのない限り、2026年9月5日時点で公表されている資料によります。統計は改定され、価格は変わります。

抹茶を点てた茶碗と茶筅、石臼と挽きたての抹茶の粉を並べた線画のイラスト

伸びているのは量ではなく、単価だった

いちばん確かな数字から置きます。日本茶輸出促進協議会が財務省貿易統計などをもとに公表している「緑茶の国別・形状別輸出実績」によると、2025年(暦年)の緑茶の輸出額は 720億9,353万6千円。2024年は363億7,985万4千円でしたから、1年で 198.2%、ほぼ倍です。

同じ表には輸出「量」の列もあります。2025年は12,611,660kg(約1万2,612トン)で前年比 143.3%。金額は倍なのに、量は1.4倍ほど。筆者はこういうとき、額と量を別々の行に書き出します。並べた時点で、金額の伸びのかなりの部分は単価の上昇だと見当がつきます。

差がはっきりするのは2026年です。同じ資料の1〜7月累計では、輸出額が582億0,769万6千円で前年同期の180.9%。いっぽう輸出量は7,083,019kgで、前年同期の105.7%でした。

  • 2025年通年 — 額 198.2% / 量 143.3%
  • 2026年1〜7月 — 額 180.9% / 量 105.7%

量はほとんど横ばいで、金額だけが8割増えている。 粉末状の緑茶の平均単価(輸出額÷輸出量)で追うと、2024年が5,341円/kg、2025年が6,927円/kg、2026年1〜7月は9,801円/kg。2026年1〜7月は前年同期(5,887円/kg)の166.5%です。日本から出ていく荷物の平均単価であって店頭価格ではありませんが、海外の買い手が去年よりかなり高い値段を受け入れていることは読み取れます。

統計の但し書きを一つ。この表の「粉末状」は貿易統計上の形状の区分で、抹茶だけを取り出した数字ではありません。粉にした緑茶がすべて抹茶になるわけではないからです(次の節で触れます)。それを承知のうえで言うと、2025年の輸出のうち粉末状は金額で84%、数量で69%。金額の比のほうが大きいのは、粉末状の単価が高いためです。

行き先も偏っています。2025年の一位はアメリカ合衆国で、輸出額293億3,860万7千円(前年比182.6%)、うち粉末状が254億2,102万7千円で金額比87%。伸び率で目を引くのは英国で、2024年の9位から2025年は3位へ上がり、輸出額は前年の503.9%になりました。

お茶は中国発祥。では抹茶は日本のものか

お茶そのものは中国から来たはずなのに、抹茶を日本のものと言ってよいのか。短く答えるなら、「茶を粉にして点てる」という発想には中国に先例があり、いま私たちが抹茶と呼んでいる形は日本で整えられた、という二段構えになります。

古い側から見ます。唐代の8世紀ごろ、陸羽が著した『茶経』(760年頃の撰述と伝わります)には、飲む茶の種類が四つ挙げられています。

飲有觕茶、散茶、末茶、餅茶者(『茶經』六之飲)

四つのうちに「末茶」の語がすでにあります。ただし、これを今日の抹茶と同じものと考えてよいかは説が分かれます。原文にあるのは製法の手順と、湯を注いで飲むという作法までで、どんな細かさの粉だったかは書かれていないからです。ここは断定を避けるところです。

その後、茶筅で点てる粉末茶の作法が中国で生まれます。ウィキペディア日本語版「抹茶」は「「抹茶」という言葉は使われていないが、茶筅で点(た)てる粉末茶は遅くとも11世紀までに中国で発生したと考えられている」として、宋代の蔡襄『茶録』(1064年)や徽宗『大観茶論』を挙げています。ところがこの作法は、中国では続きませんでした。明代の随筆『万暦野獲編』の「供御茶」の項に、その分かれ目が書き残されています。

至洪武二十四年九月,上以重勞民力,罷造龍團,惟采茶芽以進(沈徳符『萬曆野獲編』補遺一・供御茶)

洪武24年(1391年)9月、洪武帝が「民の力を重く労する」として龍団(手のかかる高級な固形茶)を作らせるのをやめ、茶の芽をそのまま献上させるよう改めた、という記述です。同じ項の少し後には、湯を注いですぐ啜る飲み方について「遂開千古茗飲之宗」、かくして千古の茗飲の宗を開いた、とあります。中国のお茶が、粉にして点てるものから葉に湯を注ぐものへ移っていく転換点です。

いっぽう日本では、粉にして点てる作法が残りました。そして日本で足されたのが、覆下栽培です。摘む前の茶園を覆って、日光を遮る工程です。

この工程がいつ始まったのかについて、面白い調べ方をした研究があります。文献を読むのではなく、土を掘ったのです。京都府宇治市に現存する最古級の茶園(奥の山茶園)の土壌を断面で採り、炭素含量・植物珪酸体・放射性炭素年代を調べた2019年の論文です。

以上のことから,宇治最古の茶園(奥の山茶園)における覆下栽培は,文献資料が示す 16 世紀後半からさらに 150 年は遡り,少なくとも 15 世紀前半には発生していたと推定された.(井上ほか「京都府宇治市の茶園土壌を用いた覆下栽培の発祥時期の推定」日本土壌肥料学会雑誌 90巻6号、2019)

それまで覆下栽培の記録として知られていたのは、1577年に来日したポルトガル人通詞ジョアン・ロドリゲスが1604年に著した『日本教会史』などの文献で、それをもとに16世紀後半には行われていたと考えられてきました。土のほうを調べると、15世紀前半まで遡る。一つの茶園の土壌断面からの推定なので、日本全体の発祥年を確定した話ではありません。それでも、中国で団茶をやめさせたのが1391年であることと並べると、時期の重なりが見えてきます。中国が粉の茶から離れていったころ、宇治では覆いをかけて日陰で育てるという別の工程が足されはじめていた。そういう見取り図になります。

同じ論文によると、覆下栽培では春の新芽の生育中に茶園を稲藁や葦簀で約20日間覆い、最終的な遮光率は約95%に達します。ほとんど日を当てない。手間のかかり方が想像できると思います。

そして現在、公益社団法人日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」(最終改正 令和8年7月10日)は、抹茶をこう定義しています。

碾茶(覆下栽培した茶葉を碾茶炉等で揉まずに乾燥したもの)を茶臼等で微粉末状に製造したもの

碾茶のほうも同じ基準で定義されています。

「碾茶」とは、摘採期前に棚施設等を利用して茶園をよしず、コモ、寒冷紗などの被覆資材で2〜3週間程度覆った「覆下茶園」から摘採した茶葉を蒸熱し、揉まないで碾茶炉等で乾燥させて製造したもの

つまり抹茶という言葉には、粉であることだけでなく、覆下栽培・蒸す・揉まない・碾茶炉で乾かす・臼で挽くという工程が丸ごと入っています。同じ基準には「粉末茶」という別の名称もあって、こちらは「茶を粉砕機等により粉末にしたもの」。緑茶を粉にしたものがすべて抹茶になるわけではない、というのが業界の表示上の整理です(業界団体の表示基準であって、法令そのものではありません)。

中国のことは、分かっている範囲だけ書きます

「中国でも抹茶が大量生産されはじめている」という話をよく見かけます。この節は、裏を取れた範囲と取れなかった範囲を分けて書きます。

まず、よく引かれる出どころについて。ウィキペディア日本語版「抹茶」には「中国でも碾茶の栽培が進んでおり、生産量で日本を凌駕するまでに至っている」という一文があります。ただし、この一文には出典が付いていません。近くに付いている唯一の出典は愛知県が2008年に出した現地レポートで、開いてみると書かれているのは「2006年には2t、2007年には3tの抹茶を製造し」という黎明期の話でした。日本を上回ったという記述はどこにもありません。

そこで、日本の研究機関がどう書いているかを見ます。農林中金総合研究所のレポート(2026年1月)は、こう書いています。

特に緑茶の最大産地である中国では貴州省で大規模抹茶工場が稼働しており輸出の拡大を急ぐ。25年の中国全体の抹茶生産量は5,000トンを超える見込みとの報道もあり、すでに日本の生産を追い越している可能性がある。

「報道もあり」「可能性がある」という留保つきの書き方です。筆者もこの留保ごと受け取るべきだと考えます。理由は二つ。

一つは、比べているものが揃っていないこと。日本側の数字としてよく出る5,336トン(2024年産)は碾茶、粉にする前の荒茶の生産量です。いっぽう中国側の数字は抹茶、粉にした後の製品とされています。加工段階が違うので、そのまま並べても大小を言えません。

もう一つは、中国側の数字自体が定まっていないこと。同じ2025年について「5,000トン超」とする報道と、「1万2,000トンを超え世界の65%以上」とする報道の両方が流通しています。2倍以上の開きです。後者の出どころとされる中国茶葉流通協会の発表資料そのものを、筆者は確かめられませんでした。出どころを確かめられなかった数字は、この記事では断定しません。

言えるのはここまでです。中国で抹茶の生産が本格的に伸びていること、日本の研究機関が「追い越している可能性がある」と留保つきで書いていること、そして日中を同じ基準で比べた公的な統計を筆者は見つけられなかったこと。数字が知りたい方には物足りないと思いますが、根拠のない桁を書くよりはましだと考えています。

なお、日本から中国へ輸出される緑茶は、2025年で894kg・1,136万3千円、国別で67位でした。数量は前年の26.0%に減っています。日本茶の輸出先としての中国は、ほとんど存在感がありません。

日本の一杯は高くなるのか。もう、なっています

すでに高くなっています。しかも値上がりは抹茶だけで止まっていません。

まず全国の平均から。農林水産省の「茶をめぐる情勢」(令和7年12月版)によると、てん茶の荒茶価格は 3,278円/kg、荒茶生産量に占める割合は7.3%、主な産地は鹿児島県・京都府・静岡県です(令和6年=2024年産・全茶期平均)。同じ資料は価格差についてこう書いています。

お茶の価格は、①茶種による価格差(てん茶はせん茶の約2.7倍)、②茶期による価格差等が大きく

生産量のほうも伸びています。てん茶の生産量は平成26年(2014年産)の1,969トンから令和6年(2024年産)の5,336トンへ、10年で約2.7倍。同じ資料は「需要の高まりを受け、てん茶の生産は増加傾向」と書いています。ついでに言うと、令和6年産の荒茶生産量は、鹿児島県が統計開始以来はじめて日本一になりました。

ただ、この全国平均よりも読者の財布に近い数字が、京都の茶舗の自社の告知にあります。冒頭で触れた一保堂茶舗は、2024年10月8日にこう告知しました。

昨今の抹茶需要の高まりから製造が追いつかず、品薄が続いております。つきましては、店舗・オンラインショップではお一人様あたりの購入点数を制限させていただきます。

翌年の2025年8月には、価格改定の説明として市場の数字を出しています。

今年5月の茶取引市場におきましては京都府における「抹茶」の取引平均価格は前年比約 2.7 倍まで高騰いたしました。また「抹茶」への生産転換の影響を受け、他茶種の供給も減り、結果的にいずれの茶種においても平均価格が高騰し、全体として取引平均価格は前年比約 2.5 倍に上昇しています。

同じ告知には「中には買い占めて転売を試みる動きも見られ」ともあります。そして2026年2月の告知には、京都府内の実勢価格がそのまま書かれています。

京都府内の機械で摘まれた抹茶(粉になる前は「てん茶」という名称で取引されます)は14,141円/kg、玉露は8,447円/kg、煎茶は4,482円/kg、番茶は1,225円/kgです。

先ほどの全国平均3,278円/kg(2024年産)と、この14,141円/kg(2025年度産・京都府内・機械摘み)は、母集団も年産も違います。並べて「4倍になった」と読むのは誤りです。それでも、産地の取引の現場で何が起きているかは、この二つを並べると伝わると思います。

この記事でいちばん伝えたいのは、次の一段です。同じ告知は、抹茶が高くなった副作用について書いています。

今後深刻な懸念点としては抹茶以外のお茶、特に番茶の生産量が大幅に落ちることが予想されます。

需要が抹茶に集中し、農家が抹茶(てん茶)向けの生産へ切り替える。すると、ほうじ茶や玄米茶の原料になる番茶が減る。同社は実際に、2026年3月1日から、極上ほうじ茶や極上玄米茶の200g袋など量目の多い番茶類の販売を終え、ドリップティーバッグのほうじ茶を再開時期未定の販売休止にしました。農林中金総合研究所のレポートも「碾茶生産の急増は煎茶の供給減少を招いた」と書いています。

世界で抹茶が売れた結果として、日本の食卓からほうじ茶や玄米茶の選択肢が減る。 ブームの話としてはあまり語られませんが、日々お茶を飲む人には、こちらのほうが直接効いてくる変化だと思います。

ただし、この値上がりを困った話としてだけ書くのは片手落ちです。同じ告知は「このお茶の価格高騰は生産家さんに直接恩恵が享受されております」「従来のお茶の価格は生産現場目線では持続が難しい状況ではありました」とも書いています。飲む側の財布と、作る側の持続。同じ一つの値動きが、立つ場所によって別の顔をします。

先行きについて、同じ茶舗は「時間の経過と共に緩和されることが予想され、平均価格も2025年度と同じ程度で引き上がることは無いのではないか」と書いています。そう見ている茶舗がある、ということであって、筆者がこの記事で相場を予想することはしません。

カフェの側から見ると、これは「コーヒーの話」でもある

このサイトはカフェとコーヒーの側から書いているので、その角度からも一つ。

農林中金総合研究所のレポートは、抹茶ラテの広がりについてこう書いています。

コーヒー豆価格の高騰で原材料費が上昇しているため、多くのカフェチェーンがメニュー多角化の一環として抹茶ラテを取り入れる傾向が強まっていることも人気をさらに押し上げているとみられる

つまり抹茶ブームの一部は、コーヒーが高くなったことの裏返しでもある、という見立てです。レポートによる推定(「とみられる」)ですが、最近のカフェのメニューを思い浮かべて、思い当たる方も多いのではないでしょうか。

同レポートは、抹茶が茶道の外へ出ていった経路を「1996年にハーゲンダッツが抹茶味を展開し、2006年にはスターバックスが抹茶ラテの販売を開始した」と整理しています(両社の公式発表そのものには筆者は到達できていないので、レポートの記述として紹介します)。ジェトロも2025年10月の記事で「スターバックスやコーヒービーンズ、ブルー・ボトル・コーヒーなどの大手カフェチェーンも抹茶を使用したドリンクメニューを展開している」と書いています。

現場の逼迫ぶりも伝わってきます。ジェトロの同じ記事は、米国の状況をこう伝えています。

米国では、抹茶の価格が高騰している。その要因は日本の緑茶収穫量の減少や米国への輸入関税15%の影響とみられる。
(米国で抹茶の輸入販売を行う日系事業者によると)2025年産の不作により、既存のお客様にも供給が間にあっていない状況にある。現在、新規のお客様はお断りしている

さらに同記事は、ロサンゼルスタイムス10月22日を引いて、ロサンゼルスの一部のカフェで「ドリンク1杯あたりの抹茶使用量を3倍に増やすといった飲み方」が供給の逼迫に拍車をかけていると伝えています。ここは変数の話です。杯数が同じでも、1杯の粉を3倍にすれば要る量は3倍になる。需要は「何杯出たか」と「1杯にどれだけ入れたか」の掛け算で、後ろのほうの変数も動いている、という報告です。

日本国内でも同じ空気があります。日本農業新聞は2025年1月の記事で、JA京都やましろの担当者の言葉として「茶商からは、販売に個数制限を設けるほど品薄との声が入ってきている」を伝えています。

「人気ランキング」を作らなかった理由

この記事の準備として、抹茶菓子・抹茶飲料の人気ランキングを載せられないかを検討しました。結局、作りませんでした。出典・調査主体・調査年・回答数が明示された調査に行き当たらなかったからです。根拠のない順位は読者の判断を歪めるので、ここは空欄のままにしておきます。

その代わりに言えるのは、抹茶が広がった形です。アイスクリームのフレーバーとして入り(1996年)、カフェのドリンクメニューとして定着し(2006年〜)、いまは大手チェーンの定番の一角にある。アイスから飲み物へ、そして飲み物の側が量を食う存在になった。今回たどれた範囲での経路は、そういうものです。

体にいいという話は、どこまで言えるか

先に断っておきます。筆者は、抹茶に医療的な効能があるとは書きません。書けるのは「公的機関や査読誌が実際に何と書いているか」までです。

まず、飲み物としてのお茶と、高用量のサプリメントは分けて考える必要があります。欧州食品安全機関(EFSA)は2018年の科学的意見で、次のように結論しています。

伝統的な方法で調製された緑茶浸出液由来のカテキン、および同等の組成の再構成飲料は、摂取量が欧州加盟国で報告されている摂取量に対応する限り、一般に安全とみなされる(EFSA Journal 2018;16(4):5239、抄録より)

いっぽうで同じ意見は、食品サプリメントとして1日800mg以上のEGCGを摂取した場合に、対照群と比べて血清トランスアミナーゼ(肝機能の指標に使われる酵素)の統計的に有意な上昇を示した介入臨床試験のエビデンスがある、とも結論しています。お茶を飲むこと自体を問題にしているのではなく、濃縮された高用量のサプリメントを別扱いにしている、という構造です。法的な基準値ではなく科学的意見であることも添えておきます。

次に、抹茶の旨味の正体について。覆いをかけるとテアニンが増える。この一文は正しいのですが、増える仕組みは「合成が盛んになる」ではありません。1981年の解説論文はこう書いています。

テアニンは、根でつくられて茎を通って新芽に移行し、そこで光をうけてポリフェノール(主としてカテキン)に代謝転換される。この転換は光量に比例して促進される。したがって、玉露のようにしゃ光(覆下)栽培を行なうとテアニンが増加してタンニンが減少するのは、しゃ光によってテアニン合成が盛んになるのではなく、テアニンからポリフェノールへの代謝が抑制されるためである。

増やしているのではなく、減るのを止めている。 覆いをかけるという一手が、味の変数のどこに効いているかがはっきりします。ついでに同じ論文には「茶樹に覆いをするとカフェイン量は増加する。」ともあります。

カフェインの量は、この記事では数字を出しません。筆者が確認できた文部科学省の食品成分表が最新版だと確かめられなかったからです。確かに言えることだけを書きます。抹茶は茶葉を漉さずに粉ごと飲みます。煎茶や番茶のように成分の一部が湯へ出たものを飲むのとは前提が違うので、同じ杯数でも摂取量は多くなりやすい。カフェインの感じ方には個人差がありますし、体調に不安のある方、妊娠中の方などは、医師や専門家にご相談ください。

ついでに一つ。筆者が見た版の成分表では、粉末100gあたりのカフェインは玉露の茶葉のほうが抹茶より多い数字でした。「抹茶がいちばんカフェインが多い」とは、少なくともその表では言えません。

抹茶にもブランドはあるのか。「銘」という呼び方

あります。ただし呼び方が少し違って、茶銘(ちゃめい)と言います。辞書(デジタル大辞泉)の説明は「茶の湯用の葉茶に付ける固有の名。室町末期に宇治の茶園名に始まり、現在は各宗家の好みによって付ける」。辞書は茶の湯の側から説明していますが、この呼び方は茶舗の商品名としても生きています。

たとえば一保堂茶舗の抹茶には、2026年9月5日時点で「初昔」「雲門の昔」「明昔」「幾世の昔」「若き白」といった銘が並んでいます。挙げた5つのうち3つに「昔」の字が入っています。丸久小山園の直営店オンラインショップにも、2025年1月時点で「極長安」「長安」「永寿」「雲鶴」「金輪」「和光」「又玄」「千木の白」「五十鈴」「青嵐」といった銘が掲載されていました(現行サイトを筆者の環境から開けなかったため、この一件だけは2025年1月時点の記録です)。

面白いのは、この命名の作法が古いことです。「初昔」は江戸期に将軍家への献上茶として伝わる銘の名でもあります。器具なら型番で呼ぶところを、抹茶は名前で呼ぶ。筆者のノートの中で、いちばん型番から遠い列です。飲み比べるなら、変えるのは一度に一つ。同じ点て方のまま銘だけを変えるのが分かりやすいと思います。

なお、どの銘が優れているかを筆者は判定しません。価格も変動するので、各社の公式ページで参照時点とあわせてご確認ください。

海外の有名人と抹茶。確かめられた一人だけ

「海外のあの有名人も抹茶好き」という話はたくさん流通しています。今回いくつも候補に当たりましたが、本人の発信、または一次メディアでの本人の発言にたどり着けたものは、ひとつだけでした。ほかは芸能ゴシップ系の二次メディアにしか見当たらず、この記事には載せません。名前を並べるのは簡単ですが、それは裏を取ったことにはならないからです。

確かめられたのは2018年、ブルームバーグの記事です。抹茶飲料ブランドへの出資に際して、当時デンバー・ブロンコスに所属していたNFL選手のヴォン・ミラー氏が、こう語っています。

“The matcha craze has been real.”(抹茶の熱狂は本物だ)

同じ記事によると、この回の出資(シリーズAの第3ラウンド、約350万ドル)はミラー氏と音楽アーティストのディプロ氏が主導し、2017年のドレイク氏の出資と合わせて、同社の調達総額は800万ドルに達したとあります。ドレイク氏とディプロ氏について記事にあるのは出資という事実までで、抹茶を語った発言は載っていません。だからここでも、事実の分だけ書きます。

注目したいのは年です。2018年、いまから8年前。ラインバッカーが「本物だ」と言ったのは、輸出統計に倍の数字が出る7年前です。いま起きていることは、ある朝いきなり始まったわけではありません。

それで、私たちはどう飲むか

変数を分けて並べてきたので、最後に一度まとめます。

  • 輸出は金額が倍近くに伸びたが、2026年に入って量はほぼ横ばい。動いているのは単価。
  • 粉にして点てる作法には中国に先例があり、覆下栽培という工程を足して今の形にしたのは日本。
  • 中国の生産は伸びている。ただし日中を同じ基準で比べた公的統計は見つからず、断定はしない。
  • 日本の店頭はすでに高い。影響は抹茶だけでなく、番茶やほうじ茶の側に回ってきている。
  • 体への効果は断定できない。飲み物としてのお茶と高用量サプリメントは別、というのが公的機関の整理。
  • 抹茶にはブランドがある。呼び方は「銘」。

こう並べると、いまの抹茶が高い理由は、それほど込み入っていません。海外の買い手が増え、単価が上がり、農家はてん茶へ切り替える。それでも茶舗が書くとおり、需要が増えても供給はすぐには増やせず、畑を新しく作れば飲めるまで最低5年かかる。転売目当ての買い占めも一部にはあると同じ茶舗は書いていますが、値動きの芯にあるのは、農作物の時間のほうです。

だとすれば、飲む側にできることは多くありません。高い抹茶を買ったなら、点て方を一度に一つずつ試すこと。手ごろな番茶やほうじ茶が棚から減っていたら、それも同じ現象の裏側だと知っておくこと。抹茶でもコーヒーでも、変えるのは一度に一つ。数字で詰められるのはここまでで、最後の一口が旨いかどうかは、筆者の舌ではなく、あなたの舌が決めます。

参考にした資料

本文中の数値・引用はすべて次の資料から取りました。統計は改定され、価格や品揃えは変わります。参照時点は2026年9月5日です。

  1. 日本茶輸出促進協議会「緑茶の国別・形状別輸出実績」2025年1〜12月合計
  2. 同 2026年1〜7月合計
  3. 公益社団法人日本茶業中央会「緑茶の表示基準」(最終改正 令和8年7月10日)
  4. 農林水産省「茶をめぐる情勢」令和7年12月
  5. 井上弦ほか「京都府宇治市の茶園土壌を用いた覆下栽培の発祥時期の推定」日本土壌肥料学会雑誌 90(6), 2019
  6. 石垣幸三「お茶の化学成分,味・香りと茶樹の栽培」化学と生物 19(5), 1981
  7. 山本裕二「抹茶需要の拡大と加工施設の整備動向」農林中金総合研究所『調査と情報』2026年1月
  8. ジェトロ ビジネス短信「米抹茶市場の急成長で価格が高騰、カフェ経営者は抹茶の確保が課題(米国)」2025年10月27日
  9. ジェトロ 地域・分析レポート「抹茶ブームを経て本格的な普及段階に移行するASEAN日本茶市場」2026年5月18日
  10. 日本農業新聞「#抹茶ブーム 茶業界に追い風?」2025年1月27日
  11. 一保堂茶舗「【商品】抹茶購入制限のお知らせ」2024年10月8日
  12. 一保堂茶舗「抹茶を取り巻く状況と価格改定についてご案内」2025年8月1日
  13. 一保堂茶舗「お茶を取り巻く状況と番茶類の販売制限についてのご案内」2026年2月1日
  14. 一保堂茶舗 抹茶の商品一覧
  15. EFSA, Scientific opinion on the safety of green tea catechins, EFSA Journal 2018;16(4):5239
  16. Janine Wolf, “Von Miller and Diplo Join Drake to Make Matcha Happen”, Bloomberg, 2018年7月17日
  17. コトバンク「茶銘」(小学館 デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典)
  18. 『茶經』六之飲(中国語版ウィキソース)
  19. 沈徳符『萬曆野獲編』補遺一(中国語版ウィキソース)

農林水産省の資料は筆者の環境から直接開けなかったため、インターネットアーカイブ経由で取得しました。EFSAとブルームバーグの記事も同様です。

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